弁護士法人大地総合法律事務所、代表弁護士の佐久間です。
「自己破産をすれば、滞納している住民税もまとめて消える」「残るとしても税金くらいで、あとはきれいになる」。
自己破産のご相談では、この2つの前提からお話が始まることがあります。
しかし、どちらもそのままでは正しくありません。
税金は自己破産をしても残りますし、残るのは税金だけではなく、全部で7種類もの支払いがあるのです。
本記事では、前半で「ゼロになる借金」と「残ってしまう支払い」を整理し、後半で残った税金の払い方を解説します。
\毎月の返済が苦しい.../
自己破産をしても税金は消えない
税金は、自己破産で免責(借金の支払い責任を免除してもらうこと)されない支払いです。
所得税、住民税、固定資産税、自動車税のほか、事業をされていた方の消費税や源泉所得税も例外ではありません。
破産法によって、税金ははじめから免責の対象の外に置かれています。
法律は例外として免除されない7種類を定めていて、これに当たらない借金なら、自己破産でゼロになるという仕組みなのです。
カードローン、消費者金融、クレジットカードのリボ払い、銀行のフリーローンは、いずれもその「ゼロになるほう」に入ります。
ただし、ここで1つ注意したいのが「保証人」の存在です。
免責で借金の支払い義務が消えるのはあなた本人だけで、保証人や連帯債務者の支払い義務は消えません。
返済が止まると保証人に一括請求がいってしまうため、保証人付きの借金がある場合は、その借金だけ先に返したりせず、申立て前に弁護士と対応を決めておくことが欠かせません。
消える借金・残る借金はどれ?非免責債権
自己破産で残る支払いは、破産法に7種類が列挙されています。
これを一般に「非免責債権」と呼びますが、法律上の名称ではなく実務での通称です。
ご自身の債務を一つずつ当てはめて、どれが消えてどれが残るかを仕分けしてみてください。
破産法で定められている7つの請求権
| 号 | 条文が挙げているもの | 身近な例 |
| 1号 | 租税等の請求権 | 所得税、住民税、固定資産税、自動車税、消費税、国民健康保険料、国民年金保険料 |
| 2号 | 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権 | 意図的に人を害してお金を得た場合の賠償金 |
| 3号 | 故意または重大な過失により加えた、人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権 | 飲酒運転による人身事故の賠償金 |
| 4号 | 夫婦間の協力扶助義務、婚姻費用の分担、子の監護に関する義務、扶養の義務、およびこれらに類する契約に基づく義務にかかる請求権 | 養育費、婚姻費用、離婚時の合意で決めた養育費 |
| 5号 | 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権、使用人の預り金の返還請求権 | 従業員への未払給与 |
| 6号 | 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権 | 申告し忘れた個人からの借入 |
| 7号 | 罰金等の請求権 | 刑事裁判で言い渡された罰金、科料、追徴金、過料 |
この7つのうち、6号だけは少し性質が異なります。
1〜5号や7号(税金や養育費など)は最初から絶対に消えない支払いですが、6号は「本来なら自己破産でゼロになるはずの借金」だからです。
知人や友人からの借金であっても、正直に名簿へ書けば免除されます。
しかし、「昔のことでうっかり忘れていた」「少額だから言わなくていいと思った」といった理由で名簿から漏れてしまうと、その借金の支払い義務が残るうえ、わざと書かなかった場合は免責そのものが認められないおそれもあります。
ただし、名簿に載っていなくても、その方が破産手続開始の決定を知っていれば免責の効力は及ぶとされています。
とはいえ、知っていたかどうかを後から争うのは大変ですから、最初から全部書いておくほうが安全でしょう。
国民健康保険料・国民年金保険料も残る
国民健康保険料と国民年金保険料は、名前は「保険料」ですが、自己破産では税金と同じ扱いになります。
租税等の請求権にあたるかどうかは、税目の名前ではなく、取り立ての方法で決まります。
国税と同じ方法で取り立てられる債権は、免責でも同じに扱う、という整理です。
「非免責債権」と「免責不許可事由」は別の話
免責不許可事由はあなたに免責許可を出すかどうか、非免責債権はその債権が免責の対象になるかどうかの話で、判断している部分が異なります。
つまり、免責不許可事由が一つもなく、免責がすんなり認められたとしても、税金は残ります。
逆に、ギャンブルでの借入など免責不許可事由に心当たりがあっても、裁判所が一切の事情を考慮して許可を出すことはあります。
免責が出るかどうかの不安と、税金が残るという話は、切り離して考えてください。
【関連記事】免責不許可事由とは?該当しても裁量免責されうる理由
残った税金を払うお金はどう作る?
税金が消えないと分かったあとに考えるべきなのは、「では納税に回すお金をどこから作るか」です。
減らせるのは税金ではなく、税金以外の借金のほうです。
毎月の返済に消えているお金を自己破産などの債務整理でなくしたり減らしたりすれば、浮いたお金をそのまま納税に回すことができます。
国や役所には「法律通りに税金を徴収する義務」があるため、弁護士が入っても、交渉で値引きしてもらう余地はないのです(法律や条例の減免・免除に当たる場合と、後で説明する滞納処分の停止は別です)。
ですから、税金の対策は「減額してもらう」のではなく、「他の借金を整理して納税用のお金を確保し、役所と相談して毎月いくらずつ払っていくかを調整する」というアプローチになります。
受任通知で止まるもの・止まらないもの
弁護士が債務整理を受任すると、各債権者へ受任通知を送ります。
支払のほうも、方針が決まるまで一度止めるのが一般的な進め方です。
受任通知で止まるのは貸金業者などへの返済であって、税務署や自治体からの督促と滞納処分は止まりません。
税金については、督促を受け止めながら、税務署や自治体の窓口に別途こちらから働きかける必要があります。
【関連記事】受任通知(介入通知)とは?届いた後に起きることを時系列で解説
債務整理方法別|納税に回せる額と税金そのものの扱い
どの手続きを選ぶかで、毎月納税に回せる金額は大きく変わります。
ここでは、住民税の滞納が40万円、カードローンとクレジットの残高が合計250万円、毎月の返済が6万円、金利が年15%というモデルで比べてみましょう。
実際の金額はお一人ずつ違いますので、考え方の目安として見てください。
| 手続き | 毎月の返済額 | 納税に回せる額(月) | 1年でつくれる額 | 税金そのもの |
| 何もしない | 6.0万円 | 0円 | 0円 | 延滞税が積み上がる(令和8年=2026年は年2.8%、納期限の翌日から2か月を経過した日より後は年9.1%) |
| 任意整理 | 約4.2万円 | 約1.8万円 | 約22万円 | 減らない |
| 個人再生 | 約2.8万円 | 約3.2万円 | 約38万円 | 減らない。手続きの外で払う |
| 自己破産 | 0円 | 約6.0万円 | 約72万円 | 減らない。免責後も残る |
任意整理|将来の利息が止まった分をそのまま納税に
任意整理は、債権者と個別に交渉して、将来発生する利息を止め、残った元金を分割で返す方法です。
先ほどのモデルで元金250万円を60回に分けると、毎月の返済は約4.2万円になります。
ただし任意整理は交渉ですから、どの債権者とも同じ条件で合意できるとは限りません。
年15%で250万円の残高があれば、単純計算で利息だけで年におよそ37万円ですから、そこが止まる影響は小さくありません。
それに任意整理は対象にする債権者を選べますので、保証人が付いている借入を外すといった調整もでき、状況に合わせて設計しやすい手続きです。
個人再生|税金は減らなくても返済額が大きく下がる
個人再生は、裁判所を通して借金を法律で決められた最低弁済額(総額500万円以下なら原則100万円、それを超えると5分の1など)まで大幅に減額し、原則3年で分割返済していく手続きです。
今回のモデルケース(借金250万円)の場合、法律上の下限である100万円まで減額されます。
これを3年(36回)で返済すると、毎月の返済額は約2.8万円です。
もともと払っていた6万円との差額である「毎月約3.2万円」が浮くため、その分をそっくり住民税の支払いに充てられる計算になります。
(※手持ちの財産が多い場合や収入の状況によっては、返済額が100万円より高くなるケースもありますので、弁護士による個別の試算が必要です)
自己破産|手続きが始まったあと税金に何が起きるか
自己破産が認められれば、カードローンやクレジットの返済義務はゼロになります。
今回のモデルケースであれば、これまで返済に消えていた毎月6万円(年間約72万円)をそのまま全額、税金の支払いに回せるため、もっとも強力に納税資金を確保できます。
ただし、税金の滞納ですでに給料や預金を差し押さえられている場合は注意が必要です。
自己破産の手続きが始まっても、「すでに行われている税金の差押え」は自動的には止まらないルールになっています。
差押えの予告通知が届いている方や、すでに差し押さえを受けている方は、申立ての前に必ず弁護士へその旨を伝えてください。
税務署・自治体側の手続き|猶予制度と時効に期待できない理由
税務署や自治体の側にも、支払いを待ってもらうための制度があります。
ただしこれらは税金を減らす制度ではなく、時間を作るための制度です。
換価の猶予と納税の猶予は「時間」を作る手段
国税について申請できる猶予は大きく2つです。
| 制度 | 主な要件 | 申請期限 | 猶予される期間 |
| 換価の猶予 | 一時に納付すると事業の継続または生活の維持が困難になるおそれがあること/納税について誠実な意思があること/申請する国税以外に滞納がないこと | 納期限から6か月以内 | 1年以内 |
| 納税の猶予 | 災害・盗難、本人や生計を一にする親族の病気・負傷、事業の廃止や休止、事業の著しい損失など | 法律上の申請期限の定めはない(災害による猶予は災害がやんだ日から2か月以内) | 1年以内。延長しても通算2年まで |
| 地方税の徴収猶予・換価の猶予 | 国税とおおむね同じ組み立て | 申請による換価の猶予の期間は各自治体の条例で定まる | 1年以内 |
いずれも原則は担保の提供が必要ですが、猶予税額が100万円以下の場合、猶予期間が3か月以内の場合、担保を提供できない特別の事情がある場合は不要です。
猶予が認められると、猶予期間中の延滞税が一部(または全部)免除されるという大きなメリットがあります。
ただし、猶予が認められたからといって、すでに受けている差押えが必ず解除されるわけではありません。
法律上、差押えを解除するかどうかは役所の判断に委ねられているからです。
放置しても時効で消えることは期待できない
税金にも時効はあり、国税も地方税も原則として5年です。
しかし、税金を払わずに「5年逃げ切る」という作戦はまず成立しません。
滞納すると納期限のすぐ後に「督促状」が届き、その後も差押えを受けたり、一部を払ったり分割払いを申し出たりするたびに、5年の数え直しが起きます。
国民健康保険料や国民年金保険料の時効は2年とさらに短いのですが(国民健康保険を「税」として集めている市町村では5年)、こちらも督促状1通でリセットされます。
役所が回収を完全に忘れて放置することはまずあり得ないため、「時効待ち」は通用しないと考えてください。
滞納処分の停止は申請する制度ではない
税金の負担が最終的に消える道筋も、法律上は用意されています。
差し押さえる財産がまったくない場合や、差押えによって生活が成り立たなくなるおそれがある場合、税務署長や自治体の判断で「滞納処分の執行を停止」できる制度があります。
この停止状態が3年間続くと、滞納していた税金の納付義務は法的に消滅します。
この停止は役所が独自の権限(職権)で行うもので、法律上、納税者の側から「停止してください」と申請できる制度にはなっていません。
ただし、役所の窓口で生活が困窮している実情を正直に話し、給与明細や家計簿などの収支資料を正確に見せることで、役所側に「これ以上の差し押さえは無理だ」と判断してもらうきっかけを作ることはできます。
放置して逃げるのではなく、まずは窓口で資力の実情をしっかり伝えることが重要です。
自己破産と税金についてよくある質問
ご相談で特に多い質問をまとめました。
いずれも状況によって結論が変わりうるため、ご自身のケースに当てはめるときは個別にご確認ください。
Q1.自己破産すると滞納している住民税の差押えは止まりますか?
すでに始まっている差押えは、申立てによっては止まりません。
破産手続開始の決定が出れば新たな滞納処分はできなくなりますが、すでにされている滞納処分の続行は妨げないとされているからです。
給料や口座を差し押さえられている場合は、自己破産の申立てと並行して、役所の窓口で分割納付の合意を取り、差押えを解除・猶予してもらう交渉が必要になります。
必ず申立ての前に弁護士へ状況を伝えてください。
Q2.税金が消えないなら自己破産する意味はないのでしょうか?
意味はあります。
カードローンやクレジットの返済がなくなれば、そこに充てていた金額を丸ごと納税に回せるようになるからです。
税金を減らす手続きではありませんが、税金を払える状態に戻すための手続きではあります。
Q3.自己破産のあと残った税金はいくらずつ払うことになりますか?
一律の決まりはなく、税務署や自治体との話し合いで決まります。
収入と支出の資料を示し、無理のない分割を相談するのが基本です。
自己破産と税金については大地総合法律事務所にご相談ください
自己破産をしても、税金・国民健康保険料・国民年金保険料は残ります。
弊所では、税金の滞納を抱えたまま自己破産を検討されている方のご相談を数多くお受けしています。
どの手続きを選べば毎月いくら残るのか、猶予の申請に間に合う税目はどれか、一緒に整理させていただきます。
今何をすればいいのかわからないという方も、まずは一度無料相談をご利用ください。
\毎月の返済が苦しい.../
参考文献
- 破産法(平成16年法律第75号)第43条・第97条・第253条|e-Gov法令検索
- 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)第110条|e-Gov法令検索
- 地方自治法(昭和22年法律第67号)|e-Gov法令検索
- 地方税法(昭和25年法律第226号)第15条・第15条の6・第15条の7・第18条・第18条の2|e-Gov法令検索
- 国民年金法(昭和34年法律第141号)第102条|e-Gov法令検索
- 民事再生法(平成11年法律第225号)第122条・第231条|e-Gov法令検索
- 国税徴収法(昭和34年法律第147号)第151条の2・第152条・第153条|e-Gov法令検索
- 国税通則法(昭和37年法律第66号)第46条・第63条・第72条・第73条|e-Gov法令検索
- 延滞税の割合|国税庁
- No.9206 国税を期限内に納付できないとき|国税庁