弁護士法人大地総合法律事務所、代表弁護士の佐久間です。
「口座を差し押さえられたら、これから振り込まれるお金も全部持っていかれる」
「給料が入る口座だから、4分の3は守られるはず」
このように理解している方もいますが、そのままでは正しくありません。
差し押さえられるのは、裁判所の命令が銀行に届いた「その瞬間の残高」だけであり、その後に振り込まれるお金まで自動的に取られるわけではありません。
また、「給料の4分の3を守る法律のルール」は、あくまで会社から振り込まれる前の給料が対象です。
一度口座に入って「預金」に変わってしまうと、全額差し押さえの対象になってしまうリスクがあります。
本記事では、差押えの通知が届いた方に向けて、今日から順に何を確認すればよいかを整理します。
\毎月の返済が苦しい.../
口座を差し押さえられたら何が起きる?
差押えは、ある一瞬をつかまえる手続きです。
民事執行法は、差押えの効力は差押命令が第三債務者に送達された時に生ずる、と定めています。
口座の差押えでいえば、第三債務者とは銀行のことです。
つまり差押えの対象になるのは、差押命令が銀行に届いた、その時点の残高です。
届いた後に入金された分まで、今回の命令で自動的に引かれてしまうことはありません。
窓口やATMから引き出すことも可能です。
ただし、今回の差押えで借金全額を回収できなかった場合、債権者は「2回目の差押え」を申し立てることができます。
次の給料日を狙って再び差し押さえられるリスクがありますので、「今回はセーフだった」と放置せず、早急に根本的な借金解決へ動く必要があります。
残高の全部が取られるとは限らない
差押えできる上限は、債権者が請求している金額と執行費用までです。
残高のほうが多ければ、上限を超える部分は差押えの対象外です。
もっとも実務では、銀行側で差押えの処理や金額の確認を行うため、入出金がいったん止まることが多く、超えている分をその日のうちに引き出せるとは限りません。
通帳やアプリの記録を印刷し、いつ、いくら動いたかを残しておきましょう。
届いた書面のどこを見ればよいか
裁判所から届く差押命令には目録が付いており、そこにこの手続きの答えがほぼ書いてあります。
| 見る場所 | 分かること |
| 差押命令の日付と受け取った日 | 効力が生じた時期と、取立てまでの日数の起算点 |
| 請求債権目録 | どの借金か、元金・利息・費用の内訳、いくらまで持っていかれるか |
| 差押債権目録 | どの銀行のどの支店の、どの預金が対象か |
| 債務名義の表示 | 判決か、支払督促か、公正証書か |
口座凍結・差押え・強制執行・仮差押えの違い
口座が使えないという結果は同じでも、原因が違えばやるべきことも変わります。
| 区分 | 動いているのは誰か | きっかけ | お金は動くか | 解けるまでの道筋 |
| 口座凍結 | 銀行(銀行の判断) | その銀行やグループ会社への返済が滞る、受任通知が届く | 銀行が相殺すれば残高が減る | 保証会社の代位弁済などで銀行の債権が整理されると解ける |
| 差押え | 裁判所(債権者の申立て) | 判決・支払督促・公正証書などの債務名義がある | 一定期間の経過後に債権者が取り立てる | 取下げ、執行停止の文書、範囲変更の申立て、破産・再生手続 |
| 強制執行 | 裁判所 | 同上 | 手続き全体の呼び名 | 債権に対する強制執行は差押命令で始まる。差押えはその一場面 |
| 仮差押え | 裁判所(債権者の申立て) | 判決が出る前に、財産が動くのを防ぎたい | 止まるだけで、債権者は取り立てられない | 本訴の結果、担保の取戻し、範囲変更の申立て |
ここを取り違えたまま動くと、必要のない手続きに時間を使ってしまいます。
凍結は銀行の判断・差押えは裁判所の命令
凍結は、銀行が自分の債権を守るために行うものです。
同じ銀行に預金を預け、その銀行から借りているとき、返済が滞って貸付金の期限の利益が失われれば、銀行は預金と貸付金を相殺できる立場になります。
その準備のために入出金を止めるのが凍結です。
凍結には裁判所が関与しません。
書面も届かず、ある日引き出せなくなるという形で分かることがほとんどです。
差押えはまったく違います。
裁判所から書面が届き、命令という形で禁止が課されます。
ただ、引っ越しや不在で差押命令を受け取れていないだけのこともありますので、書面が来ていないことだけで決めつけないでください。
心当たりの債権者に弁護士から確認するのが確実です。
【関連記事】任意整理で口座凍結されるケースは?凍結期限や3つの対策を解説
裁判をした覚えがないのに差押えが来る理由
差押えには債務名義という前提が要ります。
民事執行法が定める債務名義は、確定判決だけではありません。
仮執行の宣言を付した支払督促や、公証人が作成した公正証書で債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているものも含まれます。
裁判所に行った記憶がなくても、支払督促に2週間以内の異議を出さなかった場合や、借入れのときに公正証書を作っていた場合には、差押えができる状態になっています。
給与の4分の3は差し押さえられない|振り込まれた後は扱いが変わる
差押禁止という言葉はよく知られていますが、何が守られているのかまで正確に伝わっていない論点です。
ここを理解しておくと、給料日の前後に何をすべきかを自分で決められます。
守られているのは勤務先に対する給料債権
会社から支払われる給料は、生活を保障するために「全額を差し押さえてはならない」と法律で決まっています。
手元に残せる金額は、税金や社会保険料を引いた後の「手取り44万円」を境目に、次の2パターンに分かれます。
- 手取りが44万円以下の人:給料の4分の3は手元に残り、差し押さえられるのは最大でも4分の1までです(手取り20万円なら、15万円は手元に残ります)。
- 手取りが44万円を超える人:手元に残せるのは一律33万円までとなり、33万円を超えた分はすべて差し押さえられます(手取り50万円なら、17万円が差し押さえ対象です)。
(※なお、養育費や婚姻費用の請求による差押えの場合は、より厳しく「手取りの2分の1」まで差し押さえが可能です)
手取り44万円の「4分の3」がちょうど「33万円」になるため、この金額が基準になっています。
預金になった後は同じ保護がそのまま及ぶとは限らない
会社から口座へお給料が振り込まれた瞬間、法律上のお金の性質は「給料」から「銀行の預金」に変わります。
そして裁判所の実務では、「一度預金になってしまえば、給料の4分の3ルールは適用されず、全額差し押さえられる」と判断されるのが原則です。
たとえ生活費として入った給料であっても、口座に入った時点で「ただの預金」とみなされてしまいます。
給料日の「直前」か「直後」かで結果は大きく分かれる
- 給料日の「直前」に差し押さえられた場合:その時点で口座にある残高だけが差し引かれます。まだ会社の手元にある給料は今回の差押えの対象外ですので、その後に振り込まれる給料はそのまま引き出すことができます。
- 給料日の「直後」に差し押さえられた場合:振り込まれた給料がすでに「預金」になっているため、生活費も含めて口座残高を丸ごと持っていかれる恐れがあります。
しかし、裁判所や銀行の現場実務では、形式通り「預金」として全額差し押さえられてしまうケースが多いのが現実です。
生活費が出せないときの申立て|差押禁止債権の範囲変更
差押えを受けて生活が立ち行かなくなったときは、裁判所に申し立てて、差押えの範囲を変えてもらう道があります。
これを法律上、「差押禁止債権の範囲変更の申立て」と呼びます。
「全額取られてしまっては家賃や食費が払えない」という事情を裁判所に説明し、認められれば、差押えの一部を取り消して口座のお金を使えるようにしてもらえます。
そのため申立てと同時に、裁判所に対して「決定が出るまで、銀行から債権者へのお金の支払いをストップしてほしい」という一時停止の手続きを一緒に行うのが一般的です。
ただし、裁判所が必ずストップを認めてくれるとは限りません。
また、債権者が一度お金を引き出してしまった後は、この手続きを使っても取り戻すことはできなくなります。
手遅れになる前に、生活費の困窮を示す資料(家計簿や給与明細など)を急いで揃える必要がありますので、通知が届いたら一刻も早く弁護士へご相談ください。
受任通知だけでは差押えは止まらない
弁護士に債務整理を依頼すると、弁護士から各債権者へ「受任通知」が送られます。
これにより、貸金業者からの督促の電話や郵便は法律(貸金業法)に基づいて止まります。
しかし、すでに裁判所を通して始まってしまった差押えは、受任通知を送るだけでは止まりません。
督促電話を止めるルールと、裁判所の手続きを止めるルールは全くの別物だからです。
ただし、口座の差押えは手続きのスピードが非常に早く、書面が届いてから約1週間でお金が引き抜かれてしまいます。
そのため現実には、「今回の口座差押えに間に合わせる」というよりは、「2回目の口座差押えや、勤務先への給料差押えを食い止めるために根本解決を図る」という視点が大切になります。
| 手続き | 差押えへの効き方 |
| 任意整理 | 自動では止まらない。債権者に取下げや猶予の書面をもらえれば止まる。猶予の書面で止められる期間には制限がある |
| 自己破産の申立て | 申立て後、裁判所が中止を命じることがある。債権者に不当な損害が及ばない場合に限る |
| 自己破産の開始決定 | 既にされている強制執行は効力を失う。同時廃止のときは免責許可の決定が確定するまで中止となる |
| 個人再生の開始決定 | 既にされている強制執行は中止する |
| 完済・和解 | 債権者が取り下げれば終わる |
| 時効の援用 | 債務名義がある場合は期間の考え方が変わる。個別の検討が必要 |
差し押さえられた口座はどうなる?
差押えを受けたあと、その口座はこれからどうなるのでしょうか。
差押命令で禁じられるのは、あなたが預金を取り立てたり処分したりすることと、銀行があなたに払うことの2つです。
預金契約そのものを終わらせる命令ではありませんから、口座が消えてなくなるわけではないとお考えください。
もっとも、その後にその口座が使えるかどうかは、金融機関の取扱いによって差があります。
口座の差し押さえでよくある質問
ご相談の場で実際に多い3つにお答えします。
Q1.年金や手当が入っている口座はどうなりますか
公的年金や児童手当そのものは、法律で差し押さえが固く禁じられています。
しかし、これらのお金も口座に振り込まれて「預金」に変わってしまうと、給料と同じように全額差し押さえられてしまう恐れがあります。
もし生活費として不可欠な年金や手当を差し押さえられてしまった場合は、急いで裁判所に「差押禁止債権の範囲変更」を申し立ててください。
生活に直結するお金であることが明確であれば、裁判所に差押えを取り消してもらえる可能性は十分にあります。
Q2.差押えが取り下げられたら口座はすぐ元に戻りますか
債権者が差押えを取り下げれば、裁判所からの制限は解除され、基本的には通常の口座に戻ります。
ただし、滞納していた相手が「その口座の銀行自身(カードローン等)」だった場合は要注意です。
銀行独自の判断で口座が凍結されていることが多く、その場合は保証会社による代位弁済などの処理が完了するまで、口座が使えない状態が続くことがあります。
Q3.弁護士に依頼すると差押えはどのくらいで止まりますか
手続きによって違います。
自己破産や個人再生では裁判所の決定が必要ですし、任意整理では債権者から書面をもらえるかどうかにかかります。
依頼した瞬間に止まるわけではありませんので、1週間という期限から逆算して動くことが大切です。
口座の差し押さえについては大地総合法律事務所にご相談ください
口座の差押えは、あなたの生活のすべてを取り上げる手続きではありません。
差押えを受けた状態からでも、任意整理、個人再生、自己破産のいずれかを選べる場面は残っています。
残された日数のうちに借金そのものをどう整理するかまで決めてしまうのが、いちばん確実な立て直し方ですので、書面をお持ちになってご相談ください。
\毎月の返済が苦しい.../
参考文献
- 民事執行法(昭和54年法律第4号)第22条・第39条・第143条・第145条・第152条・第153条・第155条|e-Gov法令検索
- 民事執行法施行令(昭和55年政令第230号)第2条|e-Gov法令検索
- 貸金業法(昭和58年法律第32号)第21条|e-Gov法令検索
- 債権管理回収業に関する特別措置法(平成10年法律第126号)第18条|e-Gov法令検索
- 破産法(平成16年法律第75号)第24条・第42条・第249条|e-Gov法令検索
- 民事再生法(平成11年法律第225号)第39条|e-Gov法令検索
- 民法(明治29年法律第89号)第511条|e-Gov法令検索
- 国税徴収法(昭和34年法律第147号)第62条|e-Gov法令検索
- 債権執行手続で使う書式(その他)|裁判所