【よくわかる!弁護士に学ぶ詐欺被害】自分で業者を呼ぶとクーリング・オフはできないの?
2024.08.15 | 大地総合法律事務所
この記事で分かること
自分で販売業者を自宅に呼んだ際(特定商取引法上の訪問販売にあたるとき)
- すでに申し込む内容を決めていて、その内容のまま申し込んだ場合はクーリング・オフができない。
- 申し込む内容を決めていない、もしくは申し込むつもりだった内容以外の内容で申し込んだ場合はクーリング・オフができる。
クーリング・オフをした際、
- すでに提供されたものがあったとしても返金される。
- 販売業者から損害賠償されることはない。
- 販売業者に原状回復の請求が出来る。
自分で業者を呼んだら、クーリング・オフってできない?
前回に引き続き、ご相談者様からの質問に答えていきましょう。
今回も、「クーリング・オフが出来るか否か」のお話です。
家に害虫が出たので、害虫駆除を頼もうとインターネットで業者を調べたところ、料金が1,100円~と書いてある業者を見つけたので依頼をしました。
業者に自宅に来てもらい見積もりを取ったところ、40万円かかると言われました。その場で契約をしましたが、やはり高すぎるのではないか?と不安になりました。
クーリング・オフをしたいと業者に連絡をしましたが、「自分自身で業者を呼んで依頼をしているのだから、訪問販売にはあたらず、クーリング・オフはできない」と言われました。
訪問販売
「自ら業者を呼んだ」場合に、 訪問販売にあたるのかどうか、ということですね。
そうですね。では、そもそも訪問販売とは何か、を見ていきましょう。
第2章 訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売
第1節 定義
第2条 この章及び第58条の18第1項において「訪問販売」とは、次に掲げるものをいう。
一 販売業者又は役務の提供の事業を営む者(以下「役務提供事業者」という。)が営業所、代理店その他の主務省令で定める場所(以下「営業所等」という。)以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は役務を有償で提供する契約(以下「役務提供契約」という。)の申込みを受け、若しくは役務提供契約を締結して行う役務の提供
二 販売業者又は役務提供事業者が、営業所等において、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた者その他政令で定める方法により誘引した者(以下「特定顧客」という。)から売買契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と売買契約を締結して行う商品若しくは特定権利の販売又は特定顧客から役務提供契約の申込みを受け、若しくは特定顧客と役務提供契約を締結して行う役務の提供
『訪問販売』という名前なので、「自宅に来たとき」と思いがちですが、”営業所以外の場所”なので、例えば喫茶店なども該当します。
あとはキャッチセールスとアポイントメントセールスも含みます。これは営業所も含まれます。
キャッチセールスは、路上で呼び止められてついて行って契約!のアレですね。
アポイントメントセールスはどんなものですか?
電話やハガキなどで呼び出して、喫茶店や営業所等で契約をさせる商法ですね。
適用除外
販売形態だけで見ると訪問販売で合っている気がしますが…。
もしかして、訪問販売にも先日教わった適用除外があるんでしょうか?
正解です。
今回、業者から言われているのはまさしくそれですね。条文を該当箇所だけ抜粋して見てみましょう。
第5節 雑則
(適用除外)
第26条
6 第4条から第10条までの規定は、次の訪問販売については、適用しない。
一 その住居において売買契約若しくは役務提供契約の申込みをし又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者に対して行う訪問販売
二 販売業者又は役務提供事業者がその営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受け又は売買契約若しくは役務提供契約を締結することが通例であり、かつ、通常購入者又は役務の提供を受ける者の利益を損なうおそれがないと認められる取引の態様で政令で定めるものに該当する訪問販売
つまり、『自分から業者に依頼をして契約している』として『売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者』に該当するよね、と言われている状態です。
今回の場合、「売買契約若しくは役務提供契約を締結することを請求した者」に該当するかどうかが問題になりますね。
その通りです。
請求した者とは
「請求した者」は特定商取引法ではどのような解釈をされているんですか?
特定商取引法の通達に記載があります。見てみましょう。
(10) 法第26条第6項第1号の解釈について 法第26条第6項第1号は、販売業者等が自らの意思に基づき住居を訪問して販売を行うのではなく、消費者の「請求」に応じて行うその住居における販売等を適用除外とするものである。
このような場合は、例えば、商品の売買に当たっては、
① 購入者側に訪問販売の方法によって商品を購入する意思があらかじめあること
② 購入者と販売業者との間に取引関係があること
が通例であるため、法の趣旨に照らして第2章の規定を適用する必要がないためである(ただし、法第3条及び第3条の2は適用される。)。購入者が、「○○を購入するから来訪されたい。」など、「契約の申込み」又は「契約を締結すること」を明確に表示した場合のほか、契約内容の詳細が確定していることを要しないが、購入者が契約の申込み又は締結をする意思をあらかじめ有し、その住居において当該契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思表示をした場合、「請求した者」に当たる。
商品等についての単なる問合せ又は資料の郵送の依頼等を行った際に、販売業者等より訪問 して説明をしたい旨の申出があり、これを消費者が承諾した場合は、消費者から「請求」を行ったとはいえないため、法第26条第6項第1号には該当しない。
また、販売業者等の方から電話をかけ、事前にアポイントメントを取って訪問する場合も同 様に同号には該当しない。
さらに、例えば、消費者が台所の水漏れの修理を要請し、その修理のために販売業者等が来 訪した際に、台所のリフォームを勧誘された場合や、見積りのみを目的として訪問を依頼した販売業者等とその場で修理等の契約を締結した場合については適用除外に当たらないと考えられる。加えて、販売業者等が広告等で安価な価格のみを表示しており、これに基づいて消費者が訪問を依頼したところ、広告等での表示額と実際の請求額に相当の開きがあった場合、訪問を依頼した段階においては、消費者は広告等で表示されていた安価な価格で契約を締結する程度の意思しか有しておらず、実際の請求額ほど高額な価格での契約を締結する意思を有していなかったといえ、実際に請求された金額で契約の申込み又は締結を行いたい旨の明確な意思を表示したといえないような場合には、当該消費者は「請求した者」には該当せず、適用除外に当たらないと考えられる。(令和5年4月21日付通達 特定商取引に関する法律等の施行について)
えーん!長いよー!わかんないよー!
事務局さんが泣きながら遠くに…。
つまり、『よっしゃ!この内容この金額で申し込むぞ!家に来てくれ!』って家に呼んだ場合は適用除外ですよ、ということです。
なるほど!初めから内容も金額も決めて納得したうえで呼んでたら、たしかに勧誘云々じゃなくなりますものね。
(急に戻ってきた)
そうですね。
ん?『販売業者等が広告等で安価な価格のみを表示しており、これに基づいて消費者が訪問を依頼したところ、』って、ご相談者様の状況がそのまま書いてありませんか?
よく気づきましたね。
ここで書いてあることを簡単に言うと、消費者は広告を見た時点では、あくまで広告上の安い金額だったら契約を締結しようという意思をもっており、実際の請求額くらいの高い金額でも契約を締結しようとは思ってないわけだから、「契約を行いたい旨の明確な意思表示をしていない」として適用除外になりませんよ、ということです。
今回のご相談者様もそうですよね!「安価な1,100円なら契約するか」という意思をもって訪問を依頼していて、その時点で「高額な40万円で契約を締結する意思」は無かったわけですから、請求した者には該当しない!
つまり?
適用除外にはあたらず、訪問販売に該当する!
よく導けました。
やったー!
クーリング・オフ
じゃあ、クーリング・オフできるということで…、む。
物を買ったときのクーリング・オフとは違って、やってもらったものって返せないですよね?
もし既に害虫駆除しちゃったあとだったらどうなんでしょうか?その場合でもクーリング・オフはできますか?
その場合でもクーリング・オフはできます。訪問販売におけるクーリング・オフを見てみましょう。
(訪問販売における契約の申込みの撤回等)
第9条 販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客から商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約の申込みを受けた場合におけるその申込みをした者又は販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等以外の場所において商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合(営業所等において申込みを受け、営業所等以外の場所において売買契約又は役務提供契約を締結した場合を除く。)若しくは販売業者若しくは役務提供事業者が営業所等において特定顧客と商品若しくは特定権利若しくは役務につき売買契約若しくは役務提供契約を締結した場合におけるその購入者若しくは役務の提供を受ける者(以下この条から第9条の3までにおいて「申込者等」という。)は、書面によりその売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回又はその売買契約若しくは役務提供契約の解除(以下この条において「申込みの撤回等」という。)を行うことができる。ただし、申込者等が第5条の書面を受領した日(その日前に第4条の書面を受領した場合にあつては、その書面を受領した日)から起算して8日を経過した場合(申込者等が、販売業者若しくは役務提供事業者が第6条第1項の規定に違反して申込みの撤回等に関する事項につき不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし、又は販売業者若しくは役務提供事業者が同条第3項の規定に違反して威迫したことにより困惑し、これらによつて当該期間を経過するまでに申込みの撤回等を行わなかつた場合には、当該申込者等が、当該販売業者又は当該役務提供事業者が主務省令で定めるところにより当該売買契約又は当該役務提供契約の申込みの撤回等を行うことができる旨を記載して交付した書面を受領した日から起算して8日を経過した場合)においては、この限りでない。
長い。
9条だけで8項ありますから、本当はもっと長いですよ。
……。
とにかく、すでに役務が提供されていてもクーリング・オフはできる、ということですよね。
でも、駆除したあとなので、業者側は動いてますよね?薬剤も使ってるでしょうし、その分の請求はされないんですか?
それについては、第9条の5項を見てみましょう。
(訪問販売における契約の申込みの撤回等)
第9条
5 販売業者又は役務提供事業者は、商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合には、既に当該売買契約に基づき引き渡された商品が使用され若しくは当該権利が行使され又は当該役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても、申込者等に対し、当該商品の使用により得られた利益若しくは当該権利の行使により得られた利益に相当する金銭又は当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない。
つまり、「やったことに対して購入者側が利益を得ていたとしても、その分の請求はできませんよ」と決まっているわけです。
購入者側の不当利得になるかならないか、という問題なんですが、クーリング・オフについてはなりません。
業者が動いた後でも代金は返金されるし、不当利得として損害賠償請求はされないんですね!
そうです。また、もし害虫駆除のために家具を動かしたとか、足場を組んだとか、そういう場合は業者負担で原状回復を求めることが出来ます。これは9条7項。
(訪問販売における契約の申込みの撤回等)
第9条
7 役務提供契約又は特定権利の売買契約の申込者等は、その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行つた場合において、当該役務提供契約又は当該特定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者又は当該特定権利の販売業者に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる。
ちょっと待ってください!
原状回復と言うことは、ゴキ…害虫返しますとか言われたりしませんか?
クーリング・オフではそのようなことは言われません。
よかったです…。
まとめ
このご相談者様、現在どうなってるんですか?
業者に上記を伝えてますが、「クーリング・オフはしない」の一点張りです。
あらら…。法律上クーリング・オフができたとしても、すんなり応じてくる業者は少なかったりしますよね。
弁護士ならそういうときにご相談者に変わって交渉を行えますし、交渉以外の解決のノウハウも持っています。
困ったら相談、ですね!
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