「実家に暮らす家族がリースバックの営業を受けたようだが、大丈夫だろうか」
「リースバックで家を売るとお得だと聞いたけど、本当?」
自宅を売却し、売却後は賃料を払うことで引き続き自宅に暮らせる不動産の売却方法である「リースバック」は、所有不動産を有効に活かした資金獲得方法の1つです。
自宅の売却でまとまった資金を手軽に得られるため、事業者の資金獲得や高齢者の生活資金にも活用されています。
しかし、本制度を悪用した不動産詐欺が横行し、社会問題になりつつあることはご存じでしょうか。
そこで本記事では、リースバックのトラブル事例と実際に契約する前に押さえておきたい注意点を解説します。
リースバックはれっきとした不動産手続き!仕組みを解説

売却代金を得つつ、賃料を支払うことで住み慣れた自宅で生活できます。
リースバックは自宅を売却した後でも、引越しせずに継続して生活できます。
この章ではリースバックについて、売却から賃貸借契約までの仕組みを解説します。
リースバック契約の流れ
リースバックは一般的な不動産売買とは異なり、売却後に賃貸契約を結ぶことが大きな特徴です。
以下4つのステップの順で売却から賃貸契約まで進みます。
- 相談・査定
まずはリースバックを専門とする会社や不動産会社に相談し、ご自宅の査定を受けます。
この際、売却価格だけでなく、将来の賃料や契約期間など、詳細な条件についても話し合います。 - 契約
査定内容に納得できたら、売買契約と賃貸借契約を同時に結びます。
売買契約でご自宅を売却し、賃貸借契約でそのまま住み続けるための条件を定めます。 - 売却
売買契約に基づいて、ご自宅の所有権がリースバック会社に移転します。
このタイミングで売却代金が一括で支払われるため、まとまった資金を手にできます。 - 賃貸開始
売却後であっても、リースバック契約では引き続きご自宅に住み続けることが可能です。
賃貸借契約に基づいて毎月賃料を支払いながら、これまでと変わらない生活を継続できます。
引越しをすることなく不動産を売却できるため、生活資金・事業資金を求める方などに利用されています。

リースバックはどこに依頼できる?
リースバック契約は、一般的な不動産会社は取り扱っていないことが多いため注意が必要です。
リースバックを依頼できるのは、主に以下2つの会社です。
- リースバック専門会社
リースバックに特化したサービスを提供しており、一戸建てや事業用物件にも対応。
- 一部の不動産会社
通常の不動産売買も扱いつつ、リースバックも取り扱っている不動産会社もある。
地域の不動産事情に詳しい場合があるため、住み慣れた住まいを売却する際に相談しやすい。
リースバックの活用事例
リースバックはまとまった資金を手に入れやすいため、以下のような場面で活用されています。
- 定年後の老後資金が欲しい
- 高額の借金を一括で返済したい
- 相続までに家を処分したいが、住まいも確保しておきたい
- 融資は受けられなかったが、事業を始めたい
リースバックは老後の生活資金の確保、新規事業立ち上げ時の資金調達など、さまざまな場面で応用されています。
リースバックで騙された?実際のトラブル事例5選
自宅を売却して資金を得つつ、住み慣れた家に住み続けられるリースバックは、手軽に高額の資金を手にできるため注目を集めています。
しかし、その手軽さやメリットの裏側には、思わぬトラブルやリスクが潜んでいることも事実です。
特に近年、不当な契約内容や説明不足によるトラブルが増加傾向にあり、社会問題化しています。
実際に、NHKニュースでも2025年7月に「住み続けられるはずが… 住宅のリースバックでトラブル相次ぐ」と報じるなど、リースバックに関するトラブルへの注意喚起は報道でも行われています。
そこで、この章ではリースバックのトラブル事例を5つ紹介します。
参考:NHKニュース「住み続けられるはずが… 住宅のリースバックでトラブル相次ぐ」NHKニュース 2025年7月2日 20時28分配信
相場より安く自宅を売却してしまった
リースバックの売却価格は、一般的な市場価格よりも低くなる傾向があります。
これは、リースバック会社が将来の賃料収入や再売却時のリスクを考慮するためです。
しかし、あまりにも安い金額で買い叩かれるケースもあります。
リースバックであっても売却価格の相場を複数確認しておかないと、かなり低い価格で自宅を手放してしまう可能性があります。
買い戻せなくなった
リースバックは将来的に自宅を買い戻すことも可能です。
しかし、実際には以下に挙げる理由で買い戻せないというトラブルが多発しています。
- 買戻し価格が高すぎる
売却価格に比べて買い戻し価格が高く設定されており、買い戻すための資金が用意できない
- 家賃が高すぎて滞納し、買戻しが認められない
リースバック後の賃貸契約で相場よりも高すぎる家賃で契約、その後家賃を滞納してしまい買戻しの権利を失った - 買戻し特約がない
そもそも買戻し特約付帯していないにもかかわらず、口頭で「買い戻せる」と説明され、契約後に買い戻しを拒否された
リースバック後に家を買い戻したい場合、基本的に売買契約時に買戻しの条件も決めておく必要があります。
しかし、口約束で済ませてしまうケースも多く「そんな約束はしていない」と買い戻せないトラブルが発生しています。

家賃が高すぎて支払えなくなった
リースバックでは売却後に自宅を借りて住むための「家賃」が発生します。
しかし、家賃設定が市場の賃貸相場やご自身の収入状況と合っていない場合、家賃の支払いが家計を圧迫し、滞納してしまうおそれがあります。
家賃の滞納が続くと強制退去となってしまう場合もあるのです。
また、契約更新時に家賃が引き上げられることもあり、急に支払えなくなるというトラブルも発生しています。
認知症の傾向がある家族が売ってしまった
認知症などで判断能力が低下している家族が、適切な判断ができないままリースバック契約を結んでしまうトラブルも発生しています。
相場よりも安すぎる契約であっても、契約書の確認や家族への相談ができておらず、リースバックの仕組みもわからないまま契約させられてしまうのです。
判断能力が低下している高齢者を狙った悪質な手法であり、国民生活センターも注意喚起をしています。
契約更新ができず退去を求められた
リースバック契約における賃貸借契約では、「普通借家契約」と「定期借家契約」のうち、いずれかを使って契約を結びます。
定期借家契約が選ばれている場合、賃貸契約期間が満了すると原則として更新がなく、期間の満了とともに退去を求められる可能性があります。
リースバックの売買契約時には「次も更新できます」と口頭で説明されたにもかかわらず、実際には定期借家契約であり更新が不可能、家賃が釣り上げられ更新が望めない、といったケースが発生しています。
住み慣れた自宅に住み続けられるというリースバックの最大のメリットが失われ、急な引越しを余儀なくされるという事態に陥ってしまうのです。
リースバック被害が相次いでいる原因とは?

しかし、トラブルに巻き込まれてしまうと大切な自宅を失ってしまう可能性もあり、特に高齢の方には注意してほしいです。
前述のとおり、リースバックに関するトラブルや被害が相次いでいる現状があります。
では、なぜこのような事態が起こっているのでしょうか。
背景には、リースバックという契約の特性や悪質な業者の存在、そして利用者の情報不足など複数の要因が絡み合っています。
そこで、この章ではリースバックの被害が相次いでいる原因を解説します。
強引な勧誘・契約が相次いでいる
資金繰りに困っている人や、リースバックをあまり理解していない高齢者につけ込み、強引な勧誘や契約を迫るケースが報告されています。
「今すぐに現金化しないと手遅れになる」などと、不安を煽るような言葉で契約を急がせたり、長時間居座るケースもあります。
また、契約内容やリスクについて十分な説明をしないまま契約書にサインさせようとする業者もいるのです。
このような強引な勧誘が、後日リースバックを後悔する原因につながっています。
悪徳業者が高齢者をターゲットにしている
リースバックのトラブルでも特に問題となっているのが、悪徳業者が高齢者をターゲットにしているケースです。
高齢者は、リースバックに関する情報や契約の複雑さを理解しにくい傾向があるため、悪徳業者にとって狙いやすいターゲットになってしまうのです。
認知症の傾向がある方や孤独で相談相手がいない高齢者に対し、巧みな話術や居座る行為で契約を促したり、不当な契約内容で自宅を売却させたりする事例は後を絶ちません。
家族の同意を得ずに契約を結ぼうとする手口も報告されており、あとになって家族が売却に気付くなど、大きなトラブルになっています。
参考:独立行政法人 国民生活センター 強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!-本当に「そのまま“ずっと”住み続けられる」契約ですか?
リースバック契約は難解であり理解しにくい
リースバック契約自体が、一般の方々にとっては非常に難解で理解しにくいという問題も、被害が相次いでいる原因です。
特に以下の点は契約時には慎重に確認する必要があります。
- 売買契約と賃貸借契約
自宅の売却と、売却後の賃貸借契約という2つの契約を同時に行うため、確認漏れがないように慎重な確認が必要 - 専門用語
不動産売買や賃貸借契約時には専門用語が多く、難解な傾向がある
- 特約など契約内容の複雑さ
リースバックは買い戻し特約の条件や賃料の設定、契約更新の有無など、細かな特約や条項が多岐にわたり、短期間で理解することは難しい
こうした契約の複雑さから不利な条件を見抜けず、後からトラブルになるケースは少なくありません。
専門業者が少なく売却価格にばらつきがある
リースバックの専門業者は、一般的な不動産売買仲介業者に比べて専門業者の数が少ないという現状もトラブルの原因となっています。
特に地方ではまだまだ少ないため、適正な売却価格や賃料を比較検討しにくい状況があります。
リースバックの査定基準は業者によって異なり、売却価格に大きなばらつきが生じることもあります。
適正な相場を知ることが難しいため、安い価格で売却してしまっても気付きにくいのです。
リースバックで騙されないために!押さえるべき5つのポイント
リースバックのメリットもありますが、トラブルが多発していることも事実です。
しかし、適切な知識と対策を持っていれば、被害を防げます。
ここでは、リースバックで後悔しないために押さえるべき5つのポイントを解説します。

1.仕組みを正確に理解できるまで契約しない
リースバックは、単なる不動産売買や賃貸とは異なり「売却」と「賃貸」が一体となった複雑な契約です。
「自宅を売却して現金化する」ことだけを考えるのではなく、その後「家賃を払って住み続ける」という賃貸借契約が並行して存在することを理解することが重要です。
提示された売却価格や家賃の金額、買戻し条件など、すべての項目について、疑問点がなくなるまで業者に説明を求めましょう。
口頭での説明だけでなく、資料や図解を用いてわかりやすく説明を求める姿勢が大切です。
2. 契約内容を隅々まで確認する
リースバックを行う際に交わす契約書は、将来の暮らしにも大きく影響するものです。
特に以下については、契約更新に大きく影響するため注意して確認しましょう。
- 普通借家契約と定期借家契約のどちらか
「普通借家契約」とは原則として契約期間の満了後も更新されるのが基本で、貸主側から契約更新を拒否するには正当な事由が必要です。
借り手の居住権が比較的強く保護されます。
一方の「定期借家契約」とは、契約で定めた期間が満了すると、原則として契約は終了し更新されません。
貸主側に正当な事由がなくても契約終了となり、退去を求められる可能性があります。
リースバックでは定期借家契約が採用されることも多く、更新の可否や条件を特に注意深く確認しましょう。
3.売却価格は複数の見積もりを確認する
リースバックの売却価格は、通常の不動産売却相場よりも低くなる傾向があります。
しかし、それが不当に低い価格でないかを見極めるために、複数のリースバック会社や不動産会社から見積もりを取ることが非常に重要です。
最低でも2~3社から査定を受け、それぞれの売却価格や賃料、買戻し条件などを比較検討しましょう。
4.騙された・困ったら弁護士へ相談する
もしも「契約してしまったが、どうもおかしい」「強引な勧誘を受けて困っている」といった状況に陥ったら、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
弁護士は法律の専門家として、契約の無効主張(説明義務違反、錯誤など)、損害賠償請求、あるいは裁判などの法的手続きを検討することもあります。
リースバック契約が詐欺に該当するかどうかの判断や、その場合の適切な対処法についてもアドバイス可能です。
5.家族に相談したうえで契約する
高齢者の場合、家族に知られないままリースバック契約を結んでしまい、トラブルになるケースが多く見られます。
リースバックは自宅という大切な資産にかかわる契約であり、売却後の生活にも影響します。
契約前には必ず家族に相談しましょう。
家族に相談しないまま契約を進めると、相続時に欲しかった実家が失われてしまっているなど、相続トラブルに発展するおそれもあります。
リースバック契約後に後悔したらどうすればいい?

リースバック契約後に「やっぱり後悔している」「どうにか契約を解除したい」と感じることがあるかもしれません。
しかし、一度契約してしまうと、通常の不動産売買とは異なるため、対応には注意が必要です。
クーリング・オフはできない
不動産の売買契約においてのクーリング・オフは、原則、宅地建物取引業法(宅建業法)に基づいて行われます。
しかし、リースバック契約においてはクーリング・オフは対象外です。
宅建業法におけるクーリング・オフは、「売主が不動産会社、買主が個人」なら成立します。
しかし、リースバックは「売主が個人、買主が不動産会社」となるためクーリング・オフ制度が使えないのです。
例外として、訪問販売など、特定商取引法の要件を満たす場合は、特定商取引法に基づくクーリング・オフができる場合がありますが、非常に限定的です。
そのため、契約締結後は基本的に自由に契約を解除することは難しいということを理解しておく必要があります。
契約を解除したい場合は、次に紹介する解約や退去を検討しましょう。
解約する
売買契約が成立した後でリースバックをやめる場合、「解約」も選択肢の1つです。
ただし、一般的に解約時には違約金が発生します。
売買契約書には、契約解除に関する条項が定められていますが、悪質なリースバック業者の場合、高額の違約金が設定されていることもあるため注意が必要です。
退去する
賃貸借契約を解除し、自宅から退去するという選択肢もあります。
退去することで賃料の支払いはなくなりますが、違約金が発生する場合があります。
また、退去したとしても、売却した自宅は失うことになるため、新たな住居を探す必要が生じ、引越し費用や新居の契約費用などもかかります。
弁護士へ相談する
リースバック契約後に後悔したり、トラブルに直面したりした場合は弁護士に相談することもおすすめです。
弁護士は、法的な観点から主に以下の対応を検討します。
- 説明義務違反の主張
リースバック業者が契約の重要事項について十分な説明を怠った場合、説明義務違反を理由に契約の解除や損害賠償を交渉 - 錯誤による契約取消しの主張
契約内容の重要な部分について、契約時に認識違い(錯誤)があったことを理由に、契約の取消しを主張 - 消費者契約法による取消しの主張
消費者契約法に基づいて、不実告知などを理由に契約の取消しを主張
- 不法行為による損害賠償請求
悪質な業者による詐欺的な行為があった場合、不法行為による損害賠償請求を行うことを検討
上記のような理由を根拠に、弁護士であれば契約の解除や変更の交渉を業者に対して行うことが可能です。
弁護士が介入することで有利に進む可能性が高まります。
リースバック詐欺についてよくある質問

そこで、この章ではよくある質問についてまとめてみました。
リースバックは住み慣れた家での暮らしを守りつつ高額の資金を入手できますが、複雑であり疑問を持たれる方も多い不動産取引です。
そこで、よくある質問を紹介します。
リースバックは詐欺ばかりでデメリットしかない?
リースバックは違法ではなく、すべての契約が詐欺であるわけではありません。
デメリットばかりではなく、適切に利用すれば、以下のようなメリットを持つ有効な不動産活用法です。
- まとまった資金の確保
- 住み慣れた家に住み続けられる
- 固定資産税などの税金負担がなくなる

リースバックで家賃が払えないとどうなる?
リースバックで家賃が払えなくなった場合、通常の賃貸物件と同様の対応が取られます。
賃料の滞納に対する遅延損害金が発生するほか、賃料の滞納が続くと最終的には賃貸借契約を解除され、自宅からの退去を求められます。
賃貸借契約を解除されたにもかかわらず退去しない場合は、裁判所を通じて強制執行(立ち退き)が行われる可能性もあります。
家賃が支払えなくなることは、リースバックを利用するうえで最も避けたい事態の1つです。
契約前に、将来にわたって家賃を無理なく支払い続けられるかどうかを慎重にシミュレーションしておくことが重要です。
リースバックを後悔しない方法はある?
リースバックを後悔しないためには、不明な点は徹底的に質問し、納得できるまで契約しないことが大切です。
特に悪徳業者は契約を急かしたり、何度も家を訪問したりなどの手法で強引に契約させようとします。
強引な営業に対しては警察に通報したり、家族に電話するなどの方法で、契約をしないように注意しましょう。
リースバックの契約は慎重に!トラブルに直面したら迷わず弁護士へ
本記事ではリースバックによるトラブル事例や注意点を詳しく解説しました。
リースバックは、まとまった資金が必要な際に自宅を手放さずに住み続けられるという大きなメリットを持つ一方で、その複雑な仕組みや一部の悪質な業者の存在により、トラブルに巻き込まれるリスクも存在します。
契約前には、仕組みを正確に理解したうえで、複数の業者を比較検討し、契約内容を隅々まで確認することが重要です。
もし、リースバック契約後に「騙されたかもしれない」「契約内容が不当だと感じる」といったトラブルに直面したら、決して一人で抱え込まず、迷わず弁護士に相談してください。
早期の法律相談で被害の拡大を防ぐことも可能です。