「詐欺の被害に遭ってしまった」
「払ってしまったお金を取り戻したい」
詐欺の被害に遭ってしまった場合、誰もが払ってしまったお金を取り戻すことを願うはずです。
では実際に払ってしまったお金は返って来るのでしょうか?
またお金を返してもらうためにはどのような手続きが必要なのでしょうか?
本記事では、詐欺に遭った場合にお金は返ってくるのか、そして失ったお金を取り戻すための方法について解説します。
詐欺被害でお金を取り戻すには?知っておきたい2つの請求権


詐欺に遭った場合でも、お金を取り戻せる可能性があります。
そのもととなる法律上の権利が、民法の不当利得返還請求権もしくは不法行為による損害賠償請求権です。
それぞれの権利について詳しく解説します。
騙し取られたお金を取り返せる「不当利得返還請求権」
不当利得返還請求権とは、法律上の正当な理由なく利益を得た者に対して、その利益の返還を求めることができる権利です。
例えば、投資でお金を増やすという名目でお金を預けたものの、実際には投資に使われていなかった場合、民法第95条の錯誤や民法第96条第1項の詐欺として無効ないし取り消しうることになります。
参考:e-Gov法令検索「民法第95条・第96条」
無効である場合や詐欺による取り消しを主張された場合、預かっているお金を保有する法律上の関係が存在しないため、そのお金は取り戻すことを認めるべきです。
その根拠となるのが不当利得返還請求権で、民法第703条以下に規定されています。
参考:e-Gov法令検索「民法第703条」
損害を受けた場合の「不法行為による損害賠償請求権」
不法行為による損害賠償請求権とは、故意または過失により他人に損害を与えた者に対して、その損害の賠償を求めることができる権利です。
詐欺行為はまさに「故意による違法な行為」に該当するので、この請求権が成立します。
詐欺に遭ったときにお金を返してもらえるケース


詐欺でお金を返してもらえるケースを確認しましょう。
詐欺に遭ったからといって、必ずしも「お金は戻ってこない」と決まっているわけではありません。
状況によっては、お金を返してもらえるケースも存在します。
相手が特定できて被害額に対応する支払いができる
お金を返してもらえるケースの1つが、加害者が明確に特定されており、かつ加害者が被害額の対応をできる十分な資力がある場合です。
弁護士を通じた任意交渉や、必要に応じて法的手続(訴訟・差押えなど)を通じて、返金を求めることができます

詐欺に使われた銀行口座にお金が残っている
お金を返してもらえるケースとして、加害者が被害者から受け取るために使った銀行口座にまだお金が残っている場合が挙げられます。
犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)には、金融機関が詐欺に利用された口座を凍結し、その口座にあるお金を「被害回復分配金」として被害者に分配する制度があります。
参考:e-Gov法令検索「犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律」
口座にある金銭を申請した人で分ける形になりますが、ある程度被害を回復できるので利用してみる価値はあります。
相手が逮捕されて被害弁償に応じてきた
加害者が詐欺容疑で逮捕された場合、起訴前後の段階で弁護人を通じて「被害弁償をしたい」という申し出があるケースもあります。
これは刑罰を軽減するための情状酌量を狙った対応で、被害者にとっては返金を受け取る絶好のタイミングでもあります。
示談によって賠償金が支払われると、民事訴訟を起こさずとも被害回復がなされることがあります。
ただし、示談の条件や内容によっては今後の法的主張を制限される可能性もあるため、弁護士を通じて適切に交渉することをおすすめします。
その他のケース
詐欺については日本国内・日本人だけではなく、外国で外国人によって行われる場合もあります。
いわゆる国際ロマンス詐欺といわれるものは、外国人(あるいは外国人を装った日本人)が、外国を拠点にしていることもあります。
例えばナイジェリアには経済金融犯罪委員会(EFCC)という組織があり、そこに請願書を出すことで金銭を取り戻せたケースがあります。
詐欺被害のお金を返してもらうための手続き


詐欺に遭った場合、返金してもらう手続きにはどんなものがありますか?
ケースに応じた具体的な手続きを確認していきしましょう。
クレジットカードのチャージバックをする
詐欺被害にクレジットカードが使われた場合、チャージバック制度を利用することで返金される可能性があります。
チャージバックとは、商品やサービスの提供が正しく行われなかった場合などに、カード会社に申し立てることで支払いを取り消す仕組みです。
例えば、偽サイトで商品を購入して届かなかった場合などがこれにあたります。
チャージバックの条件はカード会社や国際ブランドにもよるので、利用したクレジットカード会社に問い合わせをしてみましょう。
民事上の請求をする
加害者が明確に特定できる場合は、民事上の返還請求によって金銭を取り戻すことが可能です。
民事上の請求は次のような流れで行われます。
相手の特定
民事請求の第一歩は、加害者の氏名・住所・連絡先などを特定することです。
SNSや取引履歴、振込先口座情報などを手がかりに情報を集める必要があります。
もし相手の特定ができない場合には、探偵・調査会社に依頼することで判明することもあります。
また、すでに警察の捜査が入っている場合は、その情報を活用できることもあります。
書面による返金請求
相手の情報が判明したら、返金を正式に請求します。
請求方法は法律で定められていませんが、書面で請求するのが一般的で、法律実務では内容証明郵便がよく利用されます。
相手と示談をして解決する
加害者と直接交渉して、示談による返金で解決できるケースもあります。
特に相手が訴訟や刑事事件化を避けたがっている場合には、示談に応じる可能性が高いです。
金額や支払方法など、合意内容は書面に残すようにしましょう。

法的手続きによって請求する
交渉で解決しない場合は、民事訴訟により請求を行います。
勝訴すれば、法的に返金義務が認められ、次の強制執行へ進めます。
民事訴訟では、訴状や準備書面を作成したり、証拠を集めて提出したりする必要があり、個人で対応するのは簡単ではありません。
準備が不十分なまま臨むと不利な結果になるおそれもあるため、弁護士への依頼が安心です。
強制執行で相手の財産を差し押さえる
判決や和解、公正証書などで債務名義を取得した後、相手が任意に支払わない場合には、強制執行によって相手の預金口座や給与、不動産などを差し押さえることができます。
ただし、相手に差し押さえる財産がないと、回収は難航します。
詐欺に使われた銀行口座から配当を受ける
「振り込め詐欺救済法」に基づく手続きによって被害回復分配金として配当を受けるのも1つの方法です。
具体的な方法は次のとおりです。
金融機関に口座の凍結を依頼する
詐欺被害に気付いたら、まず取引銀行に連絡し、詐欺に使われた口座の凍結を依頼します。
銀行が事実を確認できれば、速やかに資金移動を防ぐ措置がとられます。
凍結が間に合えば、被害回復につながる可能性があります。
被害回復分配金の申請をする
金融機関が詐欺口座を凍結した後、「預金保険機構」の公式サイトで公告が出されます。
公告の支払申請期間中に申請書類を提出すれば、被害者として認定され、残高に応じた金額が分配されます。
申請には、被害回復分配金支払申請書・本人確認書類や振込証明が必要です。
刑事事件となり加害者から自発的に被害弁償がされる
詐欺事件が刑事事件として立件され、加害者が逮捕・起訴されると、被害者への弁償が行われる場合があります。
その流れは次のとおりです。
被害届の提出・刑事告訴
必須ではありませんが、被害届の提出・刑事告訴を行うことが望ましいです。
被害届を提出したり刑事告訴を行うことで、警察が詐欺が発生していることや、その規模を確認できます。
加害者の逮捕に繋がりやすくなることが期待されます。

逮捕された加害者の弁護士と示談し被害弁償を受ける
加害者が逮捕された場合、弁護人を通じて被害者に示談の申し入れがなされることがあります。
示談によって早期の返金が期待できます。

詐欺に遭ったときにお金を返してもらう難しさ


その理由と少しでもお金が返ってくるためにはどうすればよいかを考えてみましょう。
詐欺の被害に遭った場合、「お金を返してもらう」ことは法律上可能でも、現実には多くの困難がともないます。
その理由として次のものがあります。
相手が特定できないことがある
詐欺の加害者が匿名のSNSアカウントや、偽名で運営するECサイトなどを通じて行動している場合、まず相手を特定すること自体が非常に困難です。
特定できなければ、法的請求や警察への捜査依頼も難航します。
特に最近では、プリペイド携帯や仮想通貨、レンタル口座などを悪用するケースも増加しており、被害者が個人で情報を突き止めるのは限界があります。
したがって、被害を受けた際には、支払い時の情報ややり取りの履歴、画面のスクリーンショットなど、相手の手がかりとなる情報をすぐに保存しておくことが重要です。
証拠が不十分だと、加害者を追跡できず返金への道も閉ざされます。
時間が経ってしまうと証拠がなくなってしまったり、追跡がより困難となるので、なるべく早く特定のために行動することが肝心です。
相手がすでにお金を使ってしまった・隠している
加害者が詐欺で得たお金をすぐに引き出して使用したり、他人名義の口座に移したりしていると、実際に返金を受けることは著しく難しくなります。
民事で勝訴しても、加害者に返還能力がなければ強制執行も実行できません。
さらに、事前に財産を隠された場合には、それを追跡して差し押さえるために多くの調査費用と時間がかかります。
このような事態を避けるためには、被害に気付いた時点で速やかに弁護士に相談し、仮差し押さえなどの保全措置を講じることが有効です。
相手が海外にいる場合、手続きが煩雑・費用がかかる
加害者が国外に逃亡している、もしくは最初から海外に拠点を置いている場合、返金手続きは一層困難を極めます。
海外の銀行口座に送金された場合や、外国のSNS・決済サービスを通じた詐欺では、国際的な捜査協力や法的手続きが必要になり、その手間や費用は非常に大きくなります。
例えば、相手国との司法共助がない場合には、そもそも訴訟すら困難です。
被害金額が高額でなければ、費用倒れになることもあります。
こうした場合には、専門の弁護士や国際的な詐欺対策機関の支援を受けることが現実的な選択です。
海外相手の詐欺では「返ってこない可能性が高い」と理解しつつ、最善の策を講じる必要があります。
どうしてもお金を返して欲しい場合に行うべきこと


どうしてもお金を返してもらいたい、という場合の対応方法は次のとおりです。
弁護士に相談する
詐欺被害に遭ったら、まず弁護士に相談することをおすすめします。
詐欺の類型や被害の内容に応じて、どのような法的手段が取れるかを的確にアドバイスしてもらえます。
また、加害者に対して内容証明を送ったり、民事訴訟を提起したりする、被害届の提出や刑事告訴の際にも、専門知識と経験を持つ弁護士の存在は不可欠です。
被害者のなかには「弁護士費用が高そう」と感じる方もいますが、初回相談が無料の事務所も多く、費用倒れにならない方法を一緒に考えてくれるところもあります。
証拠を収集する
返金を求めるうえで最も重要なのが「証拠」です。
詐欺と認められるには、支払いややり取りの履歴、相手の情報、虚偽の説明を示す証拠などが必要不可欠です。
例えば、振込明細、メール・チャットのスクリーンショット、取引ページのURLやキャプチャ、電話番号や口座情報など、可能な限り多くのデータを集めましょう。
証拠がそろっていれば、民事だけでなく刑事手続きでも立証がしやすくなります。
逆にいえば、証拠がないと警察に詐欺だと説明することも、民事での請求を裏付けることもできず、返金交渉が不利になります。
被害に気付いてからの対応スピードがすべてを左右するため、「怪しい」と思った時点で、すぐに情報を保存しておくことが大切です。
なるべく早く行動する
詐欺に気付いたら、1日でも早く対応することが返金への最大のポイントです。
時間が経てば相手に資金を引き出されてしまい、口座凍結や差し押さえも間に合わなくなります。
また、警察への届け出や銀行への連絡、チャージバックの申請など、救済手続きには申請期限が設けられていることも多く、悠長に構えていると手遅れになる可能性があります。
さらに、民事請求には時効もあるため、「あとで動けばいい」と考えるのは非常に危険です。
行動の遅れは、加害者にとって有利になります。
証拠の確保から専門家への相談、手続き開始まで、できるだけ早く、できるだけ確実に進めていくことが被害回復に不可欠です。
詐欺に遭った場合の返還請求についてよくある質問

- 詐欺の被害に遭った場合に警察に任せればお金は返ってくるのですか?
- 投資詐欺に遭った場合は振り込め詐欺救済法の対象外ですか?
- 振り込め詐欺救済法による手続きの返金率はどの程度ですか?
それぞれ詳しくみていきましょう。
詐欺の被害に遭った場合に警察に任せればお金は返ってくるのですか?
警察に被害届を提出することは非常に重要ですが、「警察に任せればお金が返ってくる」わけではありません。
なぜなら、警察の役割はあくまで「犯罪の捜査と立件」であり、金銭の返還そのものは民事手続きや加害者側の任意弁済によって行われるからです。
もちろん、逮捕や捜査によって相手が特定されれば、民事の法的手続きや被害弁償の示談交渉で回収につながることもあります。
しかし、相手が特定できない、すでに使い切っている、資産がない場合など、返金は非常に困難です。
警察への届け出は大切ですが、それと並行して民事的な請求や弁護士への相談などが必要です。
投資詐欺に遭った場合は振り込め詐欺救済法の対象外ですか?
いいえ、投資詐欺に遭った場合でも振り込め詐欺救済法による被害回復分配金による救済を受けることができます。
振り込め詐欺救済法という名前ですが、振り込め詐欺以外の場合でも利用できることを覚えておきましょう。
振り込め詐欺救済法による手続きの返金率はどの程度ですか?
令和6年度に差し押さえられた口座にあった金額(消滅預金等債権)の総額5,603百万円に対し、被害者への支払総額は4,911百万円であったことが、預金保険機構から発表されています。
参考:預金保険機構「2.令和6年度に実施した主要3公告について」
支払い率は87.7%となりますが、こちらはあくまで口座にあった金額を元にしており、実際の被害額とは乖離があります。
そのため、実際の被害額の8割以上がすべてのケースで返金されているわけではありません。
ただ、一定の返金率はあるため、返金対応の1つの手段として利用するのは有用です。
詐欺の被害回復には迅速な行動が必要
本記事では詐欺に遭ったらお金は返ってくるのかについて解説しました。
詐欺で奪われたお金は加害者が使ってしまう、隠してしまうと、時間が経てば経つほど回復が困難となります。
そのため、被害に遭ったことに気付いた段階で迅速な対応が必要です。
大地総合法律事務所は、詐欺被害のような悪質な業者への対応に特化しており、素早い対応が可能です。
相談は無料ですので、お悩みの方はまずご相談ください。