詐欺が行われた場合、被害者が相手に対して民事上の請求を行ったり、加害者が詐欺罪で刑事上の責任を追及されたりします。
民事上の請求や刑事上の責任に、時効の制度があるのをご存知でしょうか。
本記事では、詐欺にまつわる時効について弁護士が解説します。
「詐欺の被害に遭った場合にはいつまで行動を起こせるの?」とお悩みの方は是非最後までお読みください。
詐欺の時効には民事と刑事がある

詐欺事件には、民事・刑事それぞれに時効の制度があります。
そもそも時効とは、ある時点から一定期間が過ぎた事実を尊重して、法律的に正当でない状態に対して権利を認める制度です。
刑事事件については報道などでも扱われるので時効の存在をご存知の方も多いのですが、民事でも時効の制度があります。
民事の時効には、一定の事実関係をもとにその事実関係に基づく権利を認める「取得時効」と、一定の時間の経過によって請求権を消滅させる「消滅時効」があります。
詐欺では不法行為に基づく損害賠償請求権や取消権、不当利得返還請求権についての消滅時効が問題になるので、詳しくみていきましょう。
時効制度があるもの | 時効期間 | |
民事 | 不法行為に基づく損害賠償請求 | 3年 |
法律行為の取消権 | 5年 | |
不当利得返還請求権 | 5年(2020年3月31日以前は10年) | |
刑事 | 詐欺罪の時効 | 7年 |
民事:不法行為に基づく損害賠償請求権
詐欺の被害者は、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を請求できます(民法第709条)。
この損害賠償請求権については、民法第724条によって次のように規定されています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。 二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。 引用:民法「e-Gov法令検索」 |
民事:法律行為の取消権
詐欺の被害に遭った場合には、当該法律行為を取消すことができます(民法第96条第1項)。
詐欺とはいえ契約を結んだ場合、契約の効力が残ったままです。
その効力を失効させるには、契約の取消が必要です。
この取消権については、民法第126条で、追認できる時から5年間行使しないと時効により消滅すると規定されています。
取消権は、行為時から20年を経過すると、請求できなくなることも規定されています。
(取消権の期間の制限)
第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。 引用:民法「e-Gov法令検索」 |
民事:不当利得返還請求権
詐欺の被害に遭って法律行為を取り消した場合、相手に渡していたお金を不当利得返還請求権によって取り戻せます。
詐欺による契約を取り消した場合、加害者が受け取っていた金銭については、それを所持できる合法的な理由がありません。
この場合、民法第703条の不当利得返還請求権に基づいて返還を請求できます。
不当利得返還請求権は法律上の債権として、民法第166条第1項1号によって、請求できる時から5年が経過したときに時効で消滅する旨が規定されています。
あわせて、権利を行使することができる時から10年間行使しないときについても時効が規定されています。
なお、不当利得返還請求権の時効については2020年4月1日から5年と改正されており、それ以前に発生したものについては10年となっているので注意しましょう。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。 2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。 3 前二項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を更新するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。 引用:民法「e-Gov法令検索」 |

刑事事件の時効
刑事事件の時効には、刑法第31条に規定されている判決で刑の言い渡しを受けた後の刑の消滅時効と、刑事訴訟法第250条に規定されている訴追ができなくなる公訴時効があります。
刑事事件での時効といわれる場合は一般的には後者です。
刑法第246条で懲役10年以下が法定刑とされている詐欺罪は、刑事訴訟法第250条第2項第4号によって、公訴時効は7年とされています。
(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。 引用:刑法「e-Gov法令検索」 第二百五十条 (中略) ② 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。 (中略) 四 長期十五年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については七年 引用:刑事訴訟法「e-Gov法令検索」 |
詐欺の時効のカウントが止まる場合もある
なお、刑事の詐欺については時効のカウントが止まる場合があることに注意しましょう。
刑事訴訟法第255条は次の2つの場合で、時効のカウントが止まることを規定しています。
- 国外にいる場合
- 犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかった場合
たとえば、詐欺の犯人が詐欺をしてから4年国内に居て、その後2年海外で過ごし、国内に戻ってきて1年が経過したとします。
7年のうち2年間は時効のカウントが停止していたため、実際には5年分しか経過しておらず、時効は完成していないことになります。
詐欺の時効完成はいつを起算点として数えるか
内容 | 起算点 | 時効期間 |
不法行為に基づく損害賠償請求権 | 被害者(又はその法定代理人)が損害及び加害者を知った時から | 3年 |
取消権 | 追認をすることができる時から | 5年 |
不当利得返還請求権 | 権利を行使できる時から | 5年 |
公訴時効 | 犯罪行為が終わった時から | 7年 |
不法行為に基づく損害賠償における時効は、損害と加害者を知った時から3年です。
損害と加害者の両方を知ったときを起算点として時効の期間を数えます。
取消権については追認をすることができるときが起算点です。
追認ができる時については民法第124条で「取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後」とされており、詐欺の場合は「詐欺であることを知った」が該当します。
不当利得返還請求権は権利を行使できる時が起算点です。
契約を取消して不当利得返還請求権が発生した時点が該当します。
公訴時効については刑事訴訟法第253条により、犯罪行為が終わった時が起算点です。
詐欺では基本的には、お金を渡したときが該当します。
詐欺の民事において時効の完成をさせない方法

民事における請求権が時効で消滅しそうなときに、時効の完成を阻止する「時効の完成猶予」「時効の更新」とはどのような制度でしょうか。
時効の完成猶予
時効が完成するのを阻止する制度に時効の完成猶予があります。
時効の完成猶予とは、法律で定められた場合に、時効が完成するのを一定期間猶予する制度です。
たとえば、民法第150条は、債務者に対する催告をすれば、6ヶ月間時効の完成が猶予することを定めています。
催告とは、債権者が債務者に対して債務の履行を請求する意思の通知です。詐欺被害の場合は、詐欺被害者が加害者に対し、「返金をしてほしい」と伝えることを指します。
時効完成まであと3ヶ月であった場合、債務者に対する催告をすることで3ヶ月が経過しても時効は完成しません。
催告は口頭で行っても構いませんが、証拠として残すために内容証明郵便等で行うほうがよいでしょう。
時効の更新~民事訴訟などを起こす
時効の更新とは、法律で定められた場合に、時効のカウントが1からリセットされる制度です。
たとえば、民法第147条第2項は、裁判を起こして権利が確定したときに、時効のカウントがあらたに始まることを規定しています。
不法行為に基づく損害賠償請求がもうすぐ3年経過しそうな場合でも、裁判に勝訴すればそこからまた計算を始めます。
裁判を起こした時点で、民法第147条1項で、裁判が終わるまで時効の完成猶予の効果が発生し、その後に裁判によって時効の更新となります。
詐欺の時効が完成する前にするべき3つのこと

詐欺発覚後すぐに行動を開始する
詐欺が発覚した後はすぐに行動を開始しましょう。
詐欺の被害に遭うと、加害者はその金銭をすぐに使ってしまったり、マネーロンダリングによって被害者から追求できないお金に替えてしまいます。
さらに、身分を偽っていることも多く、連絡が取れなくなってしまうと、民事上の請求が困難となります。
時効にかかって請求できなくなるまで放置していると、何の救済も得られないことは珍しくありません。
詐欺の相手方の特定や、裁判をするための証拠の収集にはどうしても時間がかかります。
そのため、詐欺発覚後にはすぐに行動を開始しましょう。

詐欺を立証する証拠を集める
詐欺を立証する証拠を集めましょう。
詐欺の被害にあった場合の民事上の請求や刑事告訴をするにあたって、証拠の存在は欠かせません。
そのため、詐欺を立証する証拠を集める必要があります。
詐欺を立証するための証拠としてよく用いられるのが次のものです。
- 詐欺師との連絡内容を記録したもの(電子メール・SNS(LINE・X・Instagram・Facebook)やマッチングアプリ上でのメッセージ)
- 契約書など詐欺師と取り交わした書面
金銭の振込をした場合には相手の銀行口座(口座番号・氏名・種別など) - その他金銭のやりとりに関する記録(通帳・振込明細書・領収書など)
- 詐欺師や関係者などを特定するための情報(氏名・住所・電話番号・SNSアカウントなど)
自分のケースではどのようなものが証拠となるかについては、弁護士に相談してみましょう。
損害賠償請求・刑事告訴を検討する
民事での損害賠償請求や刑事告訴を検討しましょう。
早めに損害賠償請求ができれば、詐欺師の財産の仮差押えをすることで、被害に遭ったお金を取り戻せる場合があります。
また、振り込め詐欺救済法の手続きによって銀行口座を凍結すれば、被害回復分配金によってお金を取り戻せるかもしれません。
さらに、刑事告訴によって詐欺師が逮捕されると、刑事事件で情状酌量によって起訴猶予や刑の減軽をしてもらうために、加害者が示談を申し出てくることがあります。
これによってお金を返してもらうことができます。
時効が完成してしまうと、これらによってお金を取り戻すことができなくなってしまいます。
損害賠償請求や刑事告訴に意味があるかは、詐欺の種類やそれまでの経過によっても異なるので、弁護士に相談してみましょう。
詐欺被害に遭ったときは時効前に弁護士に相談しよう!
本記事では詐欺被害の時効について解説しました。
詐欺に基づく損害賠償請求権や取消権、取り消した後の不当利得返還請求権については民事上の消滅時効にかかると請求できなくなるとともに、刑事事件の詐欺罪についても時効にかかると起訴できなくなります。
これらによって詐欺師からお金を取り戻せる可能性は全くなくなるといっても過言ではないでしょう。
少しでも詐欺で失ったお金を取り戻したい場合には、なるべく早く弁護士に相談してみてください。