複数の人物が犯罪を行うことを共犯といいます。
SNSなどで募集されている闇バイトと呼ばれるものによる場合や、詐欺の被害者だった人が一転詐欺の共犯として逮捕・処罰されるという事態が頻繁に発生しています。
どうしてこのようなことが起きるのでしょうか。
本記事では詐欺の共犯について解説します。
「闇バイトをするとどうなるのか?」「詐欺行為に加担してしまったんだけどどうすればいいのか」と不安な方は、ぜひ最後までご覧ください。
詐欺罪の共犯の種類と罪が成立する条件

詐欺罪の共犯にはどんな種類があるのでしょうか?
また、そもそも詐欺罪はどうやって成立する犯罪ですか?

詐欺罪が成立する条件についても詳しく確認しましょう。
複数の人物が犯罪にかかわる共犯の種類と、詐欺罪の成立条件について解説します。
共同正犯
共同正犯とは、複数人が共同して犯罪を実行した場合に成立する共犯形態です。
例えば、電話で相手をだます役と、お金を受け取る役が事前に打ち合わせて連携していた場合、いずれも詐欺罪の実行行為を行っているので、共同正犯となります。
犯罪にかかわった人数にかかわらず、犯罪としては一体と判断され、刑法では正犯として1人で行った場合と同じ処罰がされます。
教唆犯
教唆犯とは、他人に犯罪をそそのかして実行させる共犯形態です。
例えば、「こうすれば簡単に金をだまし取れる」と知人に持ちかけ、その相手が実際に詐欺を実行した場合、教唆犯として処罰の対象となります。
「やってみなよ」といった軽い言葉やSNS上での発言であっても、詐欺行為につながった場合には教唆が成立する可能性があります。
教唆犯となる場合、そそのかす行為がなければ犯罪は発生しなかったといえるため、刑法では正犯として1人で行った場合と同様に処罰されるとされています。

幇助犯
幇助犯とは、犯罪の実行を助ける共犯形態です。
例えば、特殊詐欺では「口座を貸す」「SIMカードを用意する」「詐欺の拠点を提供する」などの行為がこれにあたります。
幇助は、実際にだまし取る行為をしていなくても、犯行を成立・成功させるために役立った行為があれば成立します。
刑法では、幇助犯の場合は従犯とする旨が規定されており、正犯の刑を減刑するとしています。
「自分も騙されて口座を渡しただけ」「闇バイトとして携帯電話を売っただけ」と言い訳しても、詐欺に使われると知っていた場合には、幇助犯として処罰される可能性があります。
詐欺罪の成立に必要な4つの条件
詐欺罪が成立するには、主に以下の4つの条件が必要とされます。
- 欺く行為を行う
- 欺かれた結果として相手が誤信する
- 誤信した相手がお金を渡すなどの財産的処分を行う
- 加害者が財物を取得する
なお、お金を渡さなかった場合でも未遂を処罰する規定があるので、詐欺未遂罪として犯罪が成立します。
特殊詐欺で共犯が問題となる行為
特殊詐欺で共犯が問題になる行為として、特に次の4つが挙げられます。
かけ子
「かけ子」とは、特殊詐欺で電話で被害者に連絡し、嘘の情報でだます役割を担う人物です。
例えば「警察です」「銀行協会です」などと身分を偽り、通帳やキャッシュカードの提出を求めたり、現金を振り込ませるよう仕向けたりします。
かけ子は、直接被害者と接触せずに詐欺の「入口」を担うため、一見関与が軽いように思われがちですが、詐欺の中核的役割を果たす重要なポジションであるため、共同正犯として処罰されます。

未成年者や学生がSNSの「闇バイト」に応募してかけ子にされる事例もあり、特に注意が必要です。
出し子
「出し子」とは、特殊詐欺によって被害者から振り込まれたお金を、ATMや銀行窓口から引き出す役割を担う人物を指します。
実行役として被害者のお金を物理的に手にする役割で、防犯カメラに姿がおさめられるなど存在を特定しやすいため、警察に逮捕されやすいという特徴があります。
出し子は比較的短期間で報酬が得られるとして若年層が勧誘されやすく、「軽いバイト」感覚で関与してしまうことがあります。
しかし、お金を引き出す行為は、財産を手にするという詐欺罪の構成要件に該当する行為であり、共同正犯として逮捕・起訴される可能性が高いです。
実刑判決となることもあり、安易な関与は極めて危険です。
受け子
「受け子」は、被害者の自宅まで出向き、現金やキャッシュカードなどを直接受け取る係です。
電話で被害者を騙したあと、「職員が受け取りに伺います」などと話をつなげ、実際に受け子が訪問して金品を回収します。
詐欺行為のなかでも、最も被害者と直接接触する役割であるため存在が特定しやすく、出し子同様に逮捕されやすいです。
お金を受け取る行為も、詐欺の成立条件の財産を手にする行為への加担であり、詐欺罪の共同正犯として処罰される可能性が高いです。

口座貸し
「口座貸し」とは、自分名義の銀行口座を他人に譲渡・貸与する行為で、特殊詐欺では犯罪収益の受け皿として利用されます。
「報酬がもらえる」「もう使っていない口座を売るだけ」などと持ちかけられることが多く、学生や生活困窮者がターゲットにされがちです。
銀行口座を売る際に、その銀行口座が詐欺に利用されるかもしれない、という認識を有してそのまま売ってしまった場合には、詐欺罪の幇助犯が成立する可能性があります。
一方で、銀行口座売却時、その銀行口座が何らかの犯罪に使われるかもしれない、という程度の認識であれば、過失による幇助犯も成立しないことから、詐欺罪の幇助犯が成立しない可能性は高いです。
ただ、詐欺の幇助犯が成立しない場合でも、正当な理由のない銀行口座の有償譲渡は、犯罪収益移転防止法28条2項後段に違反するため犯罪となります。

口座提供・開設関与については、不法行為に基づく損害賠償責任が認められた事例もあるので注意が必要です。
【参考】
東京地方裁判所令和6年9月27日判決
東京地方裁判所平成28年3月23日判決
東京地裁平成27年3月4日判決
東京地裁平成29年5月10日判決
特殊詐欺の共犯となった場合どうなるか

また刑は重いのでしょうか。

特殊詐欺の共犯となった場合にはどうなるのでしょうか。
逮捕・勾留によって身柄拘束される可能性が高い
特殊詐欺の共犯者として関与が疑われた場合、警察に逮捕され、その後勾留が続く可能性が高いです。
逮捕や勾留は、逃亡・罪証隠滅のおそれがある場合に行われます。
特殊詐欺は組織的に行われるので、身柄を拘束しなければ、共犯者との口裏合わせや、まだ逮捕・勾留されていない人を逃がそうとするなどのおそれがあります。
そのため、逮捕・勾留の必要性が高く見られがちで、身柄拘束される可能性が高いです。
逮捕・勾留されている間は家族とも自由に連絡が取れず、社会的信用も失いかねません。
逮捕・勾留の期間が伸びる可能性が高い
逮捕されると、最大72時間の間、警察署の留置場で自由を制限されます。
また、逮捕後の勾留期間は10日間ですが、捜査の進展によりさらに10日間延長されることがあります。
つまり、最大で20日間も身柄を拘束されます。
特殊詐欺の場合は、組織的で複雑な事件が多く、共犯関係の解明や関与の程度を調べるために勾留が長引く傾向があります。
そのため、共犯で参加した場合でも逮捕・勾留の期間が長くなる可能性が高いです。
初犯でも執行猶予がつかない実刑になる可能性もある
詐欺罪は、初犯であってもケースによっては執行猶予がつかず、実刑判決が下されることがあります。
特に特殊詐欺の実行役(受け子・出し子)として関与した場合や、金額が高額であった場合、反省の態度が乏しいとみなされた場合などには、実刑が選択されるリスクが高くなります。
懲役1年以上の実刑が科される可能性があり、刑務所での服役という現実を迎えることになります。
「自分は末端だから」「一度きりだから」という考えは通用しません。
裁判では詐欺全体の一部として重く評価されることがあり、軽率な行動が取り返しのつかない結果を招いてしまいます。

絶対に手を染めないでください。
特殊詐欺の共犯として処罰の対象になってしまった場合の対応


特殊詐欺の共犯として処罰の対象になってしまった場合にはどう対応すべきでしょうか。
不起訴にしてもらえるように対応する
逮捕後でも、取り調べに誠実に応じ、被害者と示談して反省の態度を示すことによって、起訴されずに釈放される「不起訴処分」が得られる可能性があります。
特に関与の程度が軽微であった場合や、初犯で家族や弁護士のサポートがある場合には、不起訴になる可能性も高いです。
不起訴になれば前科がつかず、社会復帰にも大きな影響を残しません。
そのためには、早期に弁護士に依頼し、供述内容を整理して反省の態度を示すようにする・被害者と示談するようにしましょう。
起訴された場合には執行猶予となるように対応する
もし起訴されてしまった場合でも、執行猶予となるように対応しましょう。
執行猶予とは、刑事裁判で有罪とされても、一定期間、刑の執行を猶予する制度です。
執行猶予となれば有罪であっても刑務所に服役せずに済み、社会生活に戻ることができます。
刑事裁判では刑罰の重さは、犯罪の動機や犯罪への関わり方によって異なり、悪質な動機ではなくで犯罪に加わった場合や、犯罪への関与が軽微であるような場合には刑罰が軽くなります。
また、反省をしている・示談をしたなど、犯罪後の事情があると刑罰が軽くなります。
犯行の動機が悪質ではない・犯罪への関与が軽微であるときちんと主張し、反省をして示談をすませるなどして、実刑ではなく執行猶予となるように対応しましょう。
20歳未満の場合は少年事件として保護観察処分となるように対応する
20歳未満の少年が詐欺に加担した場合は、原則として「少年事件」として家庭裁判所に送致されます。
少年事件では更生が重視され、そのために必要な処分が選択されます。
犯行内容や犯罪後にどのような態度であるか、家族などのサポート環境を整えるなどして、保護観察処分としてもらい、少年院送致や刑事事件として処理するための逆送がされないようにしましょう。
そうすれば、身柄拘束が解かれ元の生活に戻ることができ、生活への影響を最小限に抑えることができます。

早めに弁護士に相談してください。
知らぬ間に詐欺幇助に加担してしまう方(しまった方)の特徴


どのような人が知らぬ間に詐欺幇助に加担してしまうのでしょうか。
お金が必要で焦っている・お金を稼ぎたい、などの特徴についてみてみましょう。
お金が必要で焦っている
生活に困って、急にまとまったお金が必要になったときなど、人は正常な判断を失い、特殊詐欺に荷担してしまいます。
「即日2万円支給」「借金返済に充てられる」などと甘い言葉で誘い込まれ、「一度だけだから」「バレなければ大丈夫だから」と軽い気持ちで関与してしまいます。
楽にお金を稼ぎたいと思っている
「働かずに儲けたい」「すぐに楽して収入を得たい」といった考えがあると、詐欺に巻き込まれやすくなります。
SNSや副業サイトで良く見られるのが、「簡単バイト」「荷物を受け取るだけで3万円」など、怪しい高収入案件です。
こうした情報の多くは詐欺グループが人員を募るために使っているもので、手を出した瞬間から犯罪に関与するリスクがあります。
手軽に稼げる話には必ず裏があります。
「楽に儲ける方法はない」と心得ておくことが、詐欺被害を避けるための第一歩です。
目先のお金に惑わされてしまっている
一時的にお金が手に入るとしても、それが将来にわたる信用の喪失や逮捕・起訴というリスクをともなうことを見落としてしまう人が少なくありません。
数万円〜数十万円の報酬で犯罪に手を貸してしまえば、その代償は一生ついて回ることもあります。
特に若者は「バレないだろう」「仲間もやっているし大丈夫」と安易に考えがちです。
しかし、受け子や出し子など、闇バイトで募集するような役割の人は足がつきやすく、身柄の特定が比較的容易なものばかりです。
その場しのぎの誘惑には十分注意し、安易な選択をしないよう自分を守る意識が必要です。
まとめ|特殊詐欺の共犯になった場合には早めに弁護士を
本記事では、特殊詐欺の共犯について解説しました。
特殊詐欺は最近では重大な社会問題であり、関与の程度が小さくても、実刑となる可能性が高いです。
身柄拘束や前科がつくことで、人生に大きな影響を与える結果になりかねません。
自身も詐欺の被害に遭った場合や、多額の借金を抱えてしまって、詐欺に荷担してお金を稼ぐことを考えているのであれば、弁護士に相談して被害回復・債務整理を依頼し人生を立て直しましょう。
もしすでに詐欺に荷担してしまった場合には、早めに弁護士に相談して、不起訴処分や執行猶予にしてもらえるようにしましょう。